スパークプラグからスマートソリューションへ
日本特殊陶業株式会社は、スパークプラグの世界最大のメーカーとして、世界的評価を築いてきました。1936年に名古屋で創業し、90年近くにわたる精密工学と、卓越したセラミックス技術を基盤としています。
同社は現在、単なる自動車部品メーカーにとどまらない存在へと進化しています。 「2030 長期経営計画 日特BX」と「エコビジョン2030」の下、従来型のメーカーから、グローバルなスマートテクノロジー企業へ大胆な変革を遂げようとしています。同社は、スマートモビリティ、医療、エネルギー、そして環境ソリューションといった戦略分野へ積極的に事業を拡大しています。これらの取り組みは、製造業の枠を超えた新たな価値創造という、「2040 目指す姿」とも一致しています。
このビジョンを反映し、同社は2023年に英文商号を「NGK SPARK PLUG CO., LTD.」から「Niterra Co., Ltd.」へと変更しました。新社名は、ラテン語で「輝く」を意味する「niteo」と、「地球」を意味する「terra」を組み合わせた造語で、持続可能で、テクノロジー主導のイノベーションを通じて世界を照らす企業となる、同社のコミットメントを象徴しています。
この転換の一環として、同社はグローバルなグループ全体に及ぶDXとIT戦略強化策を展開し、ITシステムの統合とワークフローの自動化に注力を開始しました。この取り組みの中心にあるのは、「アイデンティティ」です。同社は、グローバル規模の成長、子会社の統合、従業員のアプリケーションとデータへのアクセス効率化のために最新化された、スケーラブルで、安全なアイデンティティプラットフォームが必要でした。
上席執行役員 グローバル戦略本部 DX 戦略室長 兼 IT システムカンパニープレジデントである 木村 和之氏は、次のように述べています。「私たちは単なる部品メーカーではありません。事業の戦略を考えていく上で、グループ会社全体のアイデンティティ管理を見直すことが必要でした。」
アイデンティティに向けた戦略的なシフト
かつて、日本特殊陶業のアイデンティティとアクセスマネジメント(IAM)のシステムは断片化されており、それぞれの地域が独自にActive Directoryを運用し、アイデンティティのプロビジョニングも異なるワークフローで手動管理されていました。その結果、運用面での深刻な問題が発生していました。日本における4月の新規人材採用を含む人事異動は、IT部門に多大な負荷をかけるものとなっていました。プロビジョニングの遅延は業務効率の低下は基より、異動後間もない従業員のエンゲージメントの低下、そしてセキュリティのギャップを生む原因にもなっていました。また、M&Aでのユーザーの統合には多くの時間を要する手作業が必要となり、アカウント作成ミスや権限の割り当てミスも頻発し、それらをトラッキングし修正することに困難を極めました。
こうした課題に取り組み、より柔軟な新しいビジネスモデルをサポートするため、同社はグローバルなアイデンティティ基盤としてOkta Workforce Identityを採用しました。
「以前は、3月末になると、多くの作業が発生することになり、4月1日付けのアカウントを手動でプロビジョニングしていました。しかし、Oktaでアイデンティティ運用を自動化することで、その様なことは必要なくなり、その負担が解消されます。」と、木村氏は振り返ります。
開始点は「信頼できる唯一の情報源」
グローバルな組織全体で利用できる、統合されたアイデンティティ管理を目指し、第一歩としてOkta Universal Directoryを導入しました。これにより、日本特殊陶業は、グループ会社を含む15,000人を超える全従業員のアイデンティティ情報を、標準化された一つのリポジトリに集約。これまで手作業で管理していたスプレッドシートや、個別に運用されていたActive Directoryは不要となり、信頼できる情報源である人事システムと連携することで、アイデンティティデータが自動的に同期されるようになりました。
正確かつリアルタイムなアイデンティティデータがあることで、次のステップである自動化へと進むことが可能となりました。Okta Lifecycle ManagementとOkta Workflowsを組み合わせることで、従業員の入社から異動、退職に至るまで、グローバル組織全体でアカウントの作成、削除、アクセス権の更新をすべて自動化する仕組みを構築しました。これにより、人事管理システムの情報が更新されると自動的にこれらの作業が実行されるため、これまで発生していた手作業の引き継ぎがなくなり、遅延やミスのリスクも軽減されました。
例えば、Okta Workflowsを活用すると、パスワードリセットを自動化でき、手動対応による人為的なエラーを減らすだけでなく、セキュリティの強化にも繋がります。木村氏は、アイデンティティ関連業務にかかる負荷が約80%軽減できると推測しており、IT部門は日々のルーチン業務から解放され、より戦略的な課題に集中する時間ができるようになると言います。
木村氏はこう語ります。「Oktaを導入する前は、人事部門とIT部門の間で発生する変更を手動で調整する必要がありました。Oktaにより、人事部が情報を更新すると、アイデンティティシステムが即座にそれを反映することができます。IT部門の手動登録はなくなり、それらに伴う人的ミスが無くなることは基より人的工数の削減、そして迅速な対応が可能となります。
セキュリティ強化と業務負荷軽減の両立
「以前は、IT部門が人事部門から更新人事データを受け取りシステムへの人的作業により登録しており、作業遅延や登録ミスによるシステムエラーなどに気を配る必要がありました。現在は、それらの変更は自動でデータ反映されるようになりました。これによりIT部門の担当者は他の業務に専念することが可能となりました。」と、木村氏は振り返ります。
同時に、日本特殊陶業は使いやすさを保ちながらセキュリティを強化するため、多要素認証(MFA)とOkta FastPassを導入しました。
これにより、従業員は指紋認証などの生体認証やパスワードレスのログインを使えるようになりました。その結果、パスワードを何度も入力する煩わしさがなくなり(パスワード疲れの軽減)、同時にフィッシング攻撃への防御力も高まっています。
特に大きなインパクトをもたらしたのは、製造現場での認証の改善です。
工場で働く従業員は、手袋やマスク、安全ゴーグルを着用しているため、従来のパスワード入力のような認証方法は現実的ではありませんでした。しかし、Okta FastPassを導入したことで、パスワードを使わずに、より簡単に、しかも安全にアクセスできるようになりました。
木村氏はこのように教えてくれました。「工場現場でもキーボードに触れたり、安全装備を外したりせずに、安全に利便性よく認証ができることは、まさに求めていた実用的なイノベーションです。」
M&Aにおけるスピードと俊敏性の実現
日本特殊陶業はM&Aを通して事業を拡大していく中、Oktaは統合スピードを加速するために重要な役割を担っていきます。以前は、新たにグループ入りした企業のシステムを整合させ、ユーザーをオンボーディングするまでに多くの時間を要していました。しかし、今後は標準化されたアイデンティティガバナンスと自動化の仕組みにより、IT部門はわずか数日で新たなグループ会社をプラットフォームに組み込むことができるようになります。
「Active Directoryを使っていた頃は、合併時のシステム整合に多くの時間を要しました。しかし、迅速かつ効率的なグローバル変革を実現するためには、セキュリティを維持しながら、より迅速に対応する必要がありました。」と、木村氏は説明します。
フェデレーション企業のための柔軟なガバナンス
標準化を進める一方で、日本特殊陶業はグループ会社ごとに異なる要件があることを十分に理解しています。
そのため、Oktaを活用した「ハブ&スポーク型」のアイデンティティモデルを採用しました。これにより、Universal Directoryと多要素認証(MFA)を使って中央でのポリシーや認証を管理しつつも、各地域のITチームに柔軟な管理権限を委譲しています。
「グループ会社が自社のアプリケーションを自由に管理できる一方で、ポリシーと認証を一元的に管理できるようになりました。そのバランスこそが、私たちのビジネスにとって不可欠なのです。」と木村氏は言います。
日本特殊陶業が考えるアイデンティティの未来
コアシステムの安定化、アクセス方針の徹底、そしてガバナンス強化といった基盤が整った今、同社は次の変革フェーズへと進んでいます。そのロードマップには、Oktaを他のグループ会社にも展開すること、全社的なパスワードレス認証を広めること、さらにはデバイスや場所、ユーザーの行動に応じてアクセス権を自動で調整するといった取り組みが含まれており、これらを通じてさらなるセキュリティと利便性の向上を目指します。
同社は、製造業のリーダーから、データ主導のテクノロジープロバイダーへと進化を続けるうえで、Oktaは今後も重要なパートナーとして歩んでいきます。
最後に木村氏は、こう話してくれました。
「Oktaを活用することで、必要な時に、適切な人を、適切なシステムへ安全に繋ぐことができます。製造の枠を超えた価値を創造していく私たちにとって、この要素は欠かせません。」
Niterra 日本特殊陶業について
愛知県名古屋市に本社を置く、日本特殊陶業株式会社は、1936年設立の世界トップシェア(※)を誇るスパークプラグやセラミック製品の製造・販売を手掛ける総合セラミックスメーカーです。独自のセラミック技術を強みに、グループ全体で世界60以上の拠点と15,000人を超える従業員を擁するグローバル企業へと成長を遂げています。※2024年3月末時点の同社推計。
現在は、モビリティ、半導体、環境・エネルギーなど多岐にわたる事業を展開し、人々の移動をより便利にするモビリティソリューションを提供しています。同社は2040年までに目指す姿として「Change with Will!」を掲げ、持続可能な社会を実現しながら、データを活用して今後の展望を切り開いています。