昨今、テック業界や投資家の間では「AIの普及によって、従来のSaaSビジネスモデルが崩壊するのではないか」という、いわゆる「SaaSの死」を巡る議論が活発化しています。2026年初頭には、この先行き不透明感から、市場ではSaaS企業の成長モデルに対して慎重な見方が強まる局面もありました。
AIエージェントが自律的にタスクをこなす時代において、既存のアプリケーションの価値はどう変わるのか。先日、米テックメディアThe Vergeの人気ポッドキャスト『Decoder』に出演したOktaのCEO兼共同創業者、トッド・マッキノンは、編集長ニレイ・パテル氏に対し、現在の状況を「大きな壁であると同時に、とてつもなく大きなチャンス」と捉える姿勢を鮮明にしました。
「バイブコーディング」でセキュリティは代替できるか?
対談の中でパテル氏は、エンジニアがAIを活用して手軽にアプリを構築する「バイブコーディング(Vibe Coding)」の潮流が、Oktaのような専門ツールの脅威になる可能性を問いかけました。
これに対しマッキノンは、単一の機能そのものを作ることは可能でも、数千におよぶ複雑なアプリケーションやインフラを「末端まで統合し、その最新状態を維持し続けること」こそが真の価値であると指摘しました。特に企業のセキュリティ担当者には、万全の安全性を担保し、最新の脅威に対応する「説明責任」があります。万が一の際に「コストを抑えるためにバイブコーディングで作りました」という言い訳は通用しません。マッキノンは、インフラ向けソフトウェアの分野には、他のカテゴリーとは異なる信頼の重みがあることを強調しました。
AIエージェントのためのアイデンティティ
マッキノンが描くビジョンの中心にあるのが、AIエージェントを「デジタル従業員」として安全に運用する未来です。彼は対談の中で、AIエージェント構築ツールの普及により、専門家ではない一般の人々までが日常的なタスクの自動化を議論し始めている現状に触れ、時代の大きな転換点を指摘しました。
Oktaが2026 年 4 月 30 日(米国時間)から一般提供を開始する新製品「Okta for AI Agents」は、まさにこの変化を先取りしたものです。マッキノンによれば、昨年の年次カンファレンス「Oktane 2025」以降、顧客の関心は驚くべき速さで「AIエージェントの安全な活用」へとシフトしています。
「エンジニアの仕事はむしろ増える」
AIエージェントが仕事を奪うという懸念に対し、マッキノンは独自のビジョンを持っています。
エンジニア需要の拡大: 生産性の向上によってソフトウェアの総量が10倍になれば、それを保守・スケールさせるための人手はむしろ不足する。5年後には今よりも多くのエンジニアが必要になるはずだ。
次世代人材の重要性: 「初級レベルのエンジニアは必要ない」という風潮には違和感がある。従来のやり方に縛られない若い世代こそが、最新ツールを使いこなし、テクノロジーの進化を後押しする原動力になる。
「サイロ」を超え、真の自由をもたらす「中立性」の価値
Oktaが創業以来守り続けているビジョンの根幹が「中立性」です。マッキノンは、特定のベンダーに依存しないこの姿勢が、ポストSaaS時代にこそ不可欠になると説いています。
現在、多くの企業は特定のプラットフォーム内に閉じた「サイロ化されたAIエージェント」を活用し始めた段階にあります。しかし、今後は異なるプラットフォームやアプリケーションをまたいで自律的に動くAIエージェントが主流になります。
「AIエージェントが社内の様々なシステムやデータにアクセスし、組織を横断して機能するようになれば、企業は特定の1社にすべてを委ねるリスクを避けたいと考えるはずです。私たちが目指しているのは、お客様が自分たちにとって最適なツールやAIエージェントを自由に選び、それらを安全に使いこなせる状態を作ることです」
AIエージェントが外部システムとやり取りする仕組みは、まだ発展途上です。Oktaは、人とシステムの両方の性質を持つAIエージェントのアイデンティティを適切に管理し、制御する「新たな標準」を確立することで、AIエージェント時代のセキュリティにおいて最大のカテゴリーを築こうとしています。
全体で約1時間に及んだインタビューでマッキノンは、市場の不透明感を冷静に眺めつつ、テクノロジーが生み出す価値の総量はこれまで以上に拡大すると強調しました。「困難な壁こそが、私を奮い立たせる」。その言葉通り、OktaはAIエージェントがもたらす新たな地平に対し、明確なビジョンを持って挑み続けています。
インタビューの全編(英語)は、The Vergeの公式サイトでご視聴いただけます。より詳細な内容をぜひ直接お確かめください。