かつて生成AIは、IT部門の制限リストに載っていました。しかし数年の間に、企業は企業ネットワーク上でこのテクノロジーをブロックする方針から、従業員全体で活用できるようにする方針へと移行しました。今日、リーダーたちはこのテクノロジーが自社に必要かどうかを議論してはいません。競争力を維持するために、どのAIプラットフォームを、いくつ導入する必要があるかを決定しているのです。
企業はAI投資をどこに集中させているのでしょうか?それを探るため、私たちは実際の数値に注目しました。それは、2022年6月から2026年6月までの期間における、Okta Platform上の20,000以上の組織における実際の匿名化されたアプリケーションアクセスデータです。
このデータは、組織がナレッジワーカーや開発者向けに展開しているAIツールの全体像を示しています。生成AIの勢いが特に著しい6つの機能カテゴリ(基盤モデル、開発者ツール、エンタープライズ検索、コラボレーションと生産性、音声文字起こしと会議AI、クリエイティブスイート)全体における、過去4年間の企業のAI利用状況を捉えています。(※調査手法については下部を参照)
自社の進捗状況を測ろうとしているリーダーにとって、このデータは、より広範な市場が実際にどのようにAIを展開しているかを明らかにします。
主な調査結果
成長の2つのスピード: 「AIネイティブ(AI-native)」のスタートアップ企業は急成長していますが、「AI強化型(AI-enhanced)」の既存企業が依然としてエンタープライズ市場の大半を占めています。
オートコンプリートからアクションへ: AIは、受動的なチャットプロンプトから、私たちの代わりに行動できる「自律型AIエージェント」へと移行しつつあります。
適材適所のツール: 企業は単一ベンダーの構成に縛られる(ロックインされる)ことなく、同時に2つ以上のAIプラットフォームを運用しています。
エンタープライズAIの状況をどのようにマッピングしたか
企業がどのAIプラットフォームを使用しているかを特定するため、私たちは匿名化されたOktaのシングルサインオン(SSO)データを分析し、100を超える個別のAI製品を追跡した上で、74の製品スイートに統合しました。
次に、ゼロから立ち上がったスタートアップ企業と、すでに数百万人の既存ユーザーを抱える巨大ハイテク企業を公平に比較する方法が必要でした。私たちの解決策は、ベースラインの成長速度に基づくフレームワークです。まず、図1に示すように、2022年6月から2026年6月までの企業アカウントの成長率を測定し、上位30社をランク付けしました。そして、このフレームワークの下で、企業を明確な2つのグループに分類しました。(※調査手法については下部を参照)
「AIネイティブ」: この期間に企業顧客基盤を4倍以上に増やした純粋な破壊的企業です。これらはAnthropic、OpenAI、Cursorなどの企業であり、生成AIが自社製品の基盤となるコアとなっています。
「AI強化型」: 顧客成長率が4倍以下のしきい値にとどまる、確立された既存企業です。これらは、GitHub/Microsoft 365、Google Workspace、Figma、Slack、Adobe、Notionなどの企業であり、生成AI時代以前にエンタープライズ市場で成功を収めていましたが、その後プラットフォームを適応させて市場を牽引しています。
デュアルエンジン市場:イノベーション対スケール
図1:最も急成長しているAIアプリランキング
2022年6月から2026年6月までの企業アカウント純増数によってランク付けされた、最も急成長しているエンタープライズAIアプリケーションのトップ30。インデックス成長スコアは、測定期間内に達成された最大企業アカウント成長率を正規化して計算されています(ベンチマークスコア最大値=100)。アカウントの成長率が4倍を超えるアプリケーションは「AIネイティブ」に分類され、4倍以下のものは「AI強化型」に分類されます。
データは、エンタープライズ市場がゼロサムの戦いではないことを示しています。「AIネイティブ」のスタートアップ企業が新機能を定義する一方で、「AI強化型」の既存企業は、すでに抱えている企業顧客にそのテクノロジーを提供しています。スタートアップ企業も既存企業も成長していますが、その出発点は異なります。
トップ30にこの2つのグループが名を連ねていることは、企業が「どちらか一方」を選んでいるわけではないことを示唆しています。むしろ、企業は新しいユースケースのために特化したスタートアップのAIツールを採用しつつ、定評のある既存企業のAIツール利用も同時に拡大させていると考えられます。
エンタープライズAIの3つのパラダイム
エンタープライズAIの状況は単に成長しただけではなく、根本的に進化しました。図2に示されているように、過去4年間で3つの生成AIのパラダイムを経験し、それぞれがビジネスの運営方法やプラットフォームによる市場シェアの獲得方法を再定義してきました。
図2:トップ10のAIアプリの成長軌跡
2022年6月から2026年6月までのトップ10エンタープライズAIアプリケーションの成長軌跡。データは、測定期間内に単一のアプリケーションによって達成された月間最大企業アカウント数を正規化したものです(インデックス最大値=100)。
オートコンプリートのパラダイム(2022年6月開始)
2022年6月のGitHub Copilotの一般提供(GA)開始は、実際の企業のワークフローにおける、初の巨大で主流となる生成AIの成功例です。GitHubの先行者利益は初期のリードをもたらし、開発者や企業のITリーダーの間での初期のマインドシェアを確固たるものにしました。
主な出来事
2022年6月:GitHub Copilot GA
チャットのパラダイム(2022年11月開始)
2022年11月のChatGPTの「ビッグバン」とも言える立ち上げは、対話型チャットボットを一般に普及させ、生成AI時代をスタートさせました。消費者への普及は瞬く間に進んだ一方で、正式な企業への導入は遅れました。このギャップによりシャドーITが生じ、従業員は業務に個人アカウントを使用するようになりました。ChatGPT Enterprise、Claude Enterprise、Gemini Enterpriseなどのエンタープライズ版の登場により、これらのツールはシャドーITから脱却し、公式なプロセスへと組み込まれました。一方、「AI強化型」の既存企業は、新しいAI機能を展開するにつれて着実な顧客成長を見せました。OpenAIは「AIネイティブ」のスタートアップ企業の中で際立っていましたが、GitHubやGoogle Workspaceなどの巨大企業の既存の規模により、既存企業の方が総アカウント数をより多く追加することができました。
主な出来事
2022年11月:ChatGPT リリース
2023年3月:Google Bard リリース
2023年7月:Claude.ai リリース
2023年8月:ChatGPT Enterprise リリース
2023年12月:GitHub Copilot Chat GA
2024年2月:GitHub Copilot Enterprise GA
2024年9月:Claude Enterprise GA
2025年10月:Gemini Enterprise GA
自律型AIエージェントのパラダイム(2025年5月開始)
Cursorの開発者主導によるホッケースティック型の普及と、2025年春のClaude Codeの爆発的な成長が、新たなパラダイムの幕開けとなりました。この期間に、AIは単に質問に答える「対話型アシスタント」から、最小限の監視で行動する「自律型AIエージェント」のビジョンへと拡大しました。高度に統合された環境で動作するAIは、継続的な人間の指示なしに、コードベースをナビゲートし、複数ステップの目標を実行し、複雑なタスクを解決できるようになりました。
製品機能のこの進化は、即座に市場の成長に結びつきました。「AIネイティブ」アプリのトップ3(Anthropic、OpenAI、Cursor)は、どの既存企業よりも多くの新規アカウントを追加したのです。図2によると、2026年3月にAnthropicは企業アカウント数でOpenAIを追い抜き、当社の基盤となる利用データでは、その翌月に月間アクティブユーザー数(MAU)でもOpenAIを上回ったことが示されています。それでもなお、既存企業が総ボリュームを圧倒的に支配しています。トップの成績を収めるAIネイティブプラットフォームであるAnthropicは、トップのAI強化型アプリケーションであるMicrosoft 365が達成したアカウントボリュームの半分未満に留まっています。同様に、当社の利用データから、AnthropicのMAUはMicrosoft 365の10分の1未満であることが明らかになっています。
主な出来事
2025年5月:Claude Code GA
2025年6月:Cursor 1.0
2026年2月:OpenAI Codex アプリ GA
2026年4月:Claude Cowork GA
2026年5月:Google Antigravity 2.0
2026年6月:Microsoft Scout プレビュー
マルチベンダーAIプラットフォームの台頭
企業はAIの価値についてすでに心を決めていると思われます。しかし、おそらくまだ決定していないのは、お気に入りのプラットフォームでしょう。図3は、2026年6月現在、すでに過半数の企業顧客が2つ以上のAIプラットフォームを同時に使用していることを強調しています。企業がAIスタックを拡張するにつれて、単一プラットフォーム展開からの脱却はスピードを上げており、1つのAIプロバイダーのみを使用している企業の数は、6月には5月と比較して1.2パーセントポイント減少しました。これらの数値には一元化されたITゲートウェイ、クラウドプロバイダー、またはAIモデルホスティングサービスを通じてモデルにアクセスする企業が含まれていないため、このマルチベンダー環境の実際の規模はさらに大きい可能性があります。当面の間、企業は選択肢をオープンにしています。
図3:AIエンタープライズエコシステムに浸透する中立性
2026年6月時点の、企業組織におけるマルチベンダーAIプラットフォームの導入割合。本調査のエコシステム分析においては、プラットフォームはエンタープライズAIアプリケーションの親会社レベルで集約されています(例:「Microsoft」にはGitHubとMicrosoft 365の両方が含まれます)。
柔軟性の維持とセキュリティの確保
4年が経過した現在でも、エンタープライズAIの状況は依然として大きく開かれており、根本的な変化を続けています。先見の明のある企業は、状況が落ち着くのを待ってはいません。彼らは今日の真の生産性を促進するために、多様なマルチベンダースタックを実行しています。
しかし、この現実には新たな考慮事項が伴います。AIが命令を受けるだけのソフトウェアから、システム全体で自律的に行動できる自律型AIエージェントへと進化するにつれて、組織は拡大するセキュリティギャップに直面しています。これを埋めるために、組織はこれらの新しいデジタルワーカーをファーストクラスのアイデンティティとして扱い、「自社のエージェントはどこにいるのか?」「何に接続できるのか?」「何ができるのか?」という3つの根本的な質問に答える必要があります。
人間、システム、そしてAIエージェントが任意のプラットフォームを超えて連携できる接続基盤が、この多様なエコシステムを機能させるためには必要です。マルチベンダーの未来において、中立的なアイデンティティレイヤーはその基盤の重要な部分であり、組織がAIツールを単に有効にするだけでなく、安全に展開するのを支援します。
調査手法について
本調査は、Okta Platform(具体的にはAuth0を除くOkta Workforce Identity)からの匿名化されたエンタープライズSSOデータに基づいています。私たちは、製品の別名や旧称を含む109の個別のAI製品・ツールを追跡しました。これらは、AI主導のディスカバリー、ドメインの専門知識、主要な業界アナリストのレポートを使用して選択され、根拠付けられました。
この生データは72の親会社にマッピングされ、6つのカテゴリにわたる74の統合ベンダー製品スイート(本レポートを通じて「アプリケーション」と呼びます)に正規化されました。カテゴリは、基盤モデル(10)、開発者ツール(14)、エンタープライズ検索(5)、コラボレーションと生産性(22)、音声文字起こしと会議AI(6)、およびクリエイティブスイート(17)です。
調査対象は、すぐに使えるソフトウェアとコーディングアシスタントに焦点を当てています。ハイパースケーラーのクラウドプラットフォーム経由のAIモデル配信、AIインフラストラクチャ、特定の部門向け業務記録システム(System of Record)ソフトウェア、データプラットフォーム内に組み込まれたAI、およびサイバーセキュリティAIは本調査から除外されています。生成AIの勢いが著しいこれら6つのカテゴリに焦点を当てることで、エンタープライズAIアプリケーション環境の進化についてより明確な洞察を提供できます。
新興の純粋な「AIネイティブ」企業と、確固たる地位を築いている既存の「AI強化型」企業との間で、標準化された公平な比較を確立するために、2022年6月から2026年6月までのエンタープライズ顧客の総獲得数を測定しました。ユニークな企業アカウントの純増数によって上位30社をランク付けしました。異なるベースラインスケール間でデータを正規化するために、企業アカウントの純成長率が最も高かったアプリケーションにベンチマークスコア100を割り当て、他のすべてのベンダースコアを比例的にスケーリングすることで、この成長をインデックス化しました。ベンダーを客観的に分類するため、データ主導のしきい値を使用しました。2022年6月から2026年6月の間に顧客成長率が4倍を超えた企業は「AIネイティブ」に分類され、4倍以下の企業は「AI強化型」とラベル付けされました。
この倍率は、経験的なビジネスの理解と機械学習の組み合わせを通じて選択されました。具体的には、「AI強化型」と「AIネイティブ」の区別が明確ではない成長スペクトル(10倍未満)の企業を正確に分類するために、機械学習(2クラスタk-meansアルゴリズム)によって顧客成長率4倍のしきい値で明確な数学的分割が特定されました。この境界線は、AIが基礎的な製品の提供として機能しているか、それとも既存製品内の統合機能として機能しているかを反映しています。
これらの調査結果は、企業の導入傾向に関する貴重な洞察を提供するものの、Oktaプラットフォーム内での行動を反映したものであり、世界的な企業の導入状況を完全に捉えていない固有のバイアスが含まれている可能性があります。
参考資料
オートコンプリートパラダイム: GitHub Copilot GA(2022年6月)
チャットパラダイム: ChatGPT リリース(2022年11月); Google Bard リリース(2023年3月); Claude.ai リリース(2023年7月); ChatGPT Enterprise リリース(2023年8月): GitHub Copilot Chat GA(2023年12月); GitHub Copilot Enterprise GA(2024年2月); Claude Enterprise(2024年9月); Gemini Enterprise GA(2025年10月)
自律型エージェントパラダイム: Claude Code GA(2025年5月); Cursor 1.0(2025年6月); OpenAI Codex アプリ GA(2026年2月); Claude Cowork GA(2026年4月); Google Antigravity 2.0(2026年5月); Microsoft Scout プレビュー(2026年6月)