「私たちは過去17年間、あらゆるアプリケーションやデバイス、データベースを接続し、統合的に管理する役割を担ってきました。だからこそ、その経験と技術をAIエージェントの時代に活かし、成果を上げられると確信しています」
Oktaの創業者兼CEOであるトッド・マッキノンは6月25日、東京都内で開催した記者説明会でそう宣言しました。マッキノンは、Oktaのこれまでの歩みを振り返るとともに、AIエージェントの普及が社会や企業にもたらすポテンシャルへの熱い思いを明かしました。
本稿では、AIエージェントが企業や組織のあり方をどう変えていくのか、そして新たな技術革新がスタートアップや企業にどのような機会をもたらすのかなど、当日の発言の中からいくつかポイントを抜粋してお届けします。
AIエージェントの「可視化」と、制御する「キルスイッチ」
「Oktaのテクノロジーの中核にあるのは、人々にとって使いやすく、かつ安全に利用できる製品を届けていきたいという思いです。強いコントロール性と同時に、高い柔軟性を持つ製品を目指しています」と語るマッキノンは、AIエージェントに関しても同じ姿勢で挑んでいく姿勢を強調しました。
マッキノンが日本滞在中のお客様との対話を通じて強く感じたのは、企業が社内に存在するAIエージェントを十分に把握できていない現実でした。マッキノンは「今週、多くの大手グローバル企業やテック企業とも面会しましたが、彼らほどの規模であっても、自社のAIエージェントがどこでどう動いているのかを把握しきれていませんでした」と明かします。
マッキノンは現在の市場の動向について、次のように指摘します。
「テクノロジー業界ではいま、AIエージェントとは何か、あるいはそれが実際に何を意味するのかについて混乱が生じています。あらゆるものがエージェントと呼ばれるようになった結果、その言葉が本来の意味を失った感があるのです」
また、Oktaの安全な運用のためのアプローチとして、マッキノンは「キルスイッチ」の重要性にも触れました。万が一の際、AIエージェントをデータやアクションから即座に切り離すこの機能は、Oktaによる自動検知だけでなく、人間の手動操作や、連携する他のセキュリティ製品からのトリガーなど、極めて柔軟に発動できます。これらは、Oktaが提供する中央管理プレーンがあって初めて実現する強力なコントロール性です。
AIの守りの本丸は「接続」にある
今から5年後には、あらゆるデバイスやシステムの自律化が進んだ結果、「AIエージェントという言葉すら使わなくなっているかもしれません」と予測するマッキノン。しかし、だからこそ異なるシステム間の「接続」の管理が重要になるというのが、彼の持論です。
「セキュリティを維持したいのであれば、それらの接続を管理する必要があります」
マッキノンは、AIに指示を出してコードを生成させる「バイブコーディング」の普及によって、企業内部で「シャドーAI」と呼ばれる未承認のAIツールが急増している現実にも触れました。その上で、Oktaの使命は、それらのツールを適切な管理下に置き、社内のシステムに安全に接続させ、信頼できる形で運用できるようにすることだと語りました。
ただし、マッキノンはこのようなリスク軽減の取り組みが、Okta1社のみの努力で成し遂げられるとは考えていません。
「ここで重要なのは、どの企業も単独であらゆるものを安全に守ることはできないという点です」と語る彼は、多くの外部ベンダーと連携しながら、シャドーAIを検知・管理する取り組みを進めていると説明しました。
その一例が、Oktaが推進するAIエージェントの安全な連携を可能にするための標準プロトコル「Cross App Access(XAA)」です。AIエージェントからアプリへの接続、およびアプリからアプリへの接続を安全に管理するためのこのプロトコルは、25社以上にエコシステムを拡大したことでも大きな注目を浴びました。
Oktaがこのような取り組みができる背景には、創業以来「中立的なベンダー」として、さまざまなテクノロジー企業と連携してきた歴史があります。あらゆるアプリケーションやデバイス、データベースを接続し、統合的に管理してきた実績こそが、Oktaの強固な成長の基盤となっています。
AIの導入がもたらす「短期的な痛み」
マッキノンはまた、AIの普及が人々の働き方をどう変えるかについても言及しました。AIの普及によって、「初級レベルのプログラマーの需要は激減する」と巷ではよく言われますが、彼はこの見方に否定的です。「今から5年後には、今以上にプログラマーの仕事が増えているはずだ」と持論を展開しました。
ただし、そのためには企業側にも変革の覚悟が必要であると語ります。現在、Okta自身も社内で「ソフトウェアの開発方法そのものを変える」取り組みを行なっています。「単に新しいツールを使えと社員に指示するだけではありません。ソフトウェアの開発プロセス自体を変える必要があるのです。そして、このプロセスは実際のところ、短期的には生産性を落とし、成長をスローダウンさせることにつながります。新しいツールを覚え、新しいやり方も身につけなければならないからです」
シリコンバレーでは、AIテクノロジーがもたらす生産性の向上が誇張され過ぎているというのがマッキノンの意見です。「今後2〜3年のうちに、本当に成果を出すのは、開発プロセスそのものを変革し、長期的な利益のために短期的な痛みを受け入れた企業です。そうした企業では、生産性が文字通り飛躍的に向上することになります」
2000年代初頭のクラウド化の波の中で起業したマッキノンにとって、AIブームは「インターネット」「クラウド」「モバイル」に続く「4番目の大きな波」だといいます。この新しい波でチャンスをつかむ重要性を語るマッキノンは、スタートアップや中小企業へのアドバイスとして「大企業やOpenAI、Anthropicのような存在を恐れる必要はない」と語ります。
「スタートアップは、テクノロジーの変化の中から生まれます。そこで重要なのは、事業領域の絞り込みです。特定の領域にフォーカスすることで、大企業にはできない大きな成果を出すことが可能なのです」
さらにマッキノンは、AIや大規模言語モデル(LLM)の登場によって、「金融におけるフィンテックのように、あらゆる産業がよりテクノロジー産業寄りに変わっていく」とも指摘 。事業規模の大小を問わず、変化を恐れず受け入れた企業こそが、大企業をも変革して次の時代に成長すると締めくくりました。
AIエージェントの普及によって、企業のシステムや業務プロセスはこれまで以上に複雑化していくことが予想されます。そうした中、人やアプリケーション、データ、そしてAIエージェントを安全につなぐOktaの取り組みは、今後ますます重要度を増していきます。