日刊工業新聞社が各種サービスのユーザーIDをOktaで統合し、ユーザーの可視化を実現
サービスごとに分散していた約116,000のユーザーIDを「日刊工ID」に統合(*注:各サービスで重複していたユーザーIDも含まれますので「日刊工ID」の総数ではありません)
約90,000件の展示会登録者のユーザーIDを、Okta CICのインポート機能を用いてスムーズに移行
「日刊工ID」への統合により、ニュースメディア「ニュースイッチ」への送客が前年同月比で約3倍増加
- ユーザーの認証やID管理が事業や媒体ごとに異なり、ユーザー情報がバラバラに存在していた
- 各種サービスの利用者はサービスごとに認証情報を取得してログインする必要があった
- 日刊工業新聞社で展開する自社サービスは、開発環境が異なる複数の外部ベンダーが開発していた
- 自社サービスごとにデータ管理などセキュリティポリシーを徹底する手間があった
- 自社サービスのサービス間送客に課題を抱えていた
日刊工業新聞電子版やさまざまな自社サービスの認証にOkta CICを用いることで、ユーザー情報を一元的に管理
「日刊工ID」という一つのIDで、サービス利用者がすべてのサービスにシングルサインオンできる環境を実現
Okta CICが提供する数多くのプログラム言語やフレームワークに対応したSDKを利用することで、複数の外部ベンダーが開発した自社サービスとのスムーズな連携を実現
Okta CICの導入により、情報漏洩のリスクが減り、プライバシーポリシーをサービスごとに徹底する手間も削減
Okta CICによってユーザー情報を統合したことでサービス間の送客がしやすくなり、一部サービスへの送客数が増加
「Okta CICでユーザーIDを統合したことで、これまで正確に見えなかったユーザー情報を可視化でき、従来から展開している事業をニーズ分解することによって生まれる新しいビジネスモデル構築のための素地をスピーディに整えられました」
日刊工業新聞社 執行役員 デジタルメディア担当 デジタル営業統括 DXプロジェクト統括 明 豊 氏
DX推進によって目指す、新しい新聞社としての形
「工業立国」「技術立国」の理念を掲げて、1915年(大正4)に創立した株式会社日刊工業新聞社(以下、日刊工)。国内屈指の産業総合紙として知られる『日刊工業新聞』は、創刊100年以上経った今でも変わることなく幅広い産業分野の最新情報を発信し続け、中小企業振興に貢献しています。しかし、社会環境の変化に伴って新聞業界全体が直面している“紙の新聞の部数減”という問題は、新聞事業を中核に位置づけてきた日刊工にとっても無縁ではありません。日刊工では新聞事業のほかに、イベント事業や出版事業、セミナー・教育事業などを展開していますが、その中で占める新聞事業の売上比率が減少しつつあります。
そうした状況の中で、日刊工が近年積極的に取り組んでいるのが、デジタルメディア事業の強化です。2018年4月には従来「デジタルマーケティング室」と呼ばれていたデジタル担当部署を「デジタルメディア局」へと格上げし、2019年4月からはDXプロジェクトを本格的に開始。“紙の新聞”に代わる新しいビジネスモデルを確立するためにデジタル基盤の整備を進めながら、日刊工業新聞電子版をはじめとするデジタル商材の拡充と、デジタル中心の新しい事業構築や新サービスの展開を始めています。
デジタルメディア局発足時に局長を担当し、現在はデジタルメディア局担当としてデジタル営業・DXプロジェクトを統括、さらに同社の執行役員も務める明 豊さんは、日刊工のDXの最大の目的は“紙の新聞事業のニーズ分解”だと言います。「これまで紙の新聞は、どのような読者がどのように記事を読んでいるかを意識せずにビジネスをしてきました。紙の購読データは新聞の販売店が持っているという状況は今でも変わりません。しかし、ネットやSNSが発展したデジタル社会では、新聞を購読するユーザーの目的は細分化しています。これまでのようにメディアが上位にあってその中にコンテンツが内包されるのではなく、これからは上質で価値のあるコンテンツが上位にあり、そのコンテンツありきでユーザーにマッチしたビジネスを考えていくことが重要です。デジタルメディア局では、“デジタル技術とデータを使ってコンテンツの価値を最大化する”ことを大きなミッションに掲げています」
日刊工業新聞社、執行役員 デジタルメディア局担当デジタル営業・DXプロジェクト統括、 明 豊さん
そのためにデジタルメディア局が最初に取り組んだのは、新聞紙面やさまざまな媒体・事業ごとにバラバラに存在していたコンテンツを一元管理するためのCMSの導入です。IT戦略パートナーであるフューチャー株式会社(以下、フューチャー)が開発した「GlyphFeeds(グリフィード)」を採用し、2021年9月から稼働をスタート。CMSによってコンテンツの統合管理を行うことで、新聞や電子版、出版などの既存サービスへの利用を容易にし、コンテンツ一つひとつを横展開して柔軟かつスピーディに新規事業・サービスを実現できる環境を整えたのです。
そして、2022年4月には新聞記事や雑誌記事、画像、セミナー動画などを販売する、新聞業界初となるコンテンツ販売のECサイト「TREK!」、2022年12月には業界のトレンドを“まとめ読み”できる情報サイト「Biz-Nova」という新しい2つのサービスをオープン。さらに、サイボウズの「kintone」をCRMとして導入することで、法人顧客の取引情報や顧客情報を一元的に管理・分析し、効果的な営業活動に結び付けることに成功しました。
Oktaでユーザー認証基盤を統合して「日刊工ID」に集約
このようにDXを積極的に推進する日刊工において、新たなビジネスモデルの構築にもう一つ欠かせなかったのが、アイデンティティ(ID)管理ソリューションです。日刊工ではさまざまな事業やサービスを展開していますが、これまでは事業・サービスごとにユーザーID管理を行っており、全社的にユーザーID情報が統合されていなかったのです。Webサービスの場合はそれぞれの配信システムで管理され、展示会の登録者情報や雑誌の定期購読者、セミナー参加者などは担当者ごとにExcelなどを使ってローカルで管理されていました。
「コンテンツを中心としたビジネスを行うには、日刊工業新聞電子版でも他のサービスでも、どのようなユーザーが利用しているかを把握することが大切です。また、これから新規サービスを開発する際も、ユーザー属性を解像度高く分析してアプローチすることが求められます。ユーザーIDの統合に関しては、日刊工業新聞100周年以降の当社の在り方を考える新規プロジェクトを2014年に行ったときに課題の一つとして挙がっていましたので、DXプロジェクトが本格的に動き出したタイミングで自然に取り組むことになりました」(明さん)
そこで、日刊工がユーザーIDを統合するために導入したのが、「Okta Customer Identity Cloud」(以下、Okta CIC)です。導入プロジェクトは2021年9月頃からスタートし、検討、導入、開発、実装のフェーズを経て、2022年11月頃から利用を開始。現在は「日刊工業新聞電子版」、ニュースメディア「ニュースイッチ」、「TREK!」、日刊工発刊の書籍・雑誌ECサイト「Nikkan BookStore」、ビジネス展示会「NIKKAN EVENTS」の5つのサービスのユーザー認証・ID管理に用い、今後は「Biz-Nova」などの他のサービスにも展開していく予定です。
日刊工のIT戦略パートナーであるフューチャーのテクノロジーイノベーショングループ シニアアーキテクト、椎名祐介さんは、Okta CICを選定したのは“システムの組み込みやすさ”が大きな理由だったと言います。「導入時にさまざまな製品を比較検討しましたが、Okta CICを選ぶ一番の決め手となったのは、各種サービスをつなぐために必要な“豊富なSDK”でした。日刊工業新聞電子版やその他サービスは異なる外部ベンダーが開発を担当しているので、それぞれ開発環境が異なります。Okta CICでは数多くのプログラム言語やフレームワークに対応したSDK、導入ドキュメント、サンプルコードが用意されているため、たとえ開発環境が異なっていても開発者が一からソースコードを書くことなく簡単に実装して連携できます」
フューチャー、テクノロジーイノベーショングループ シニアアーキテクト、椎名祐介さん
また、Okta CICには多くのAPIが用意されていることも選定理由の一つでした。中でも、特に重宝したのが「Management API」です。日刊工のイベント事業では約9万件の展示会登録者のユーザーID情報が存在していましたが、Management APIを活用したインポート機能によって、ユーザーID情報をスムーズに移行させることができました。
さらに、Okta CICは“管理画面が使いやすい”ことも大きなメリットだったと言います。デジタルメディア局でプロジェクトリーダーを務める昆 梓紗さんは次のように述べます。「日刊工側でも各メディアの運用担当者やDXプロジェクト内のID統括担当チームのメンバー、経営企画部内のデータ活用推進チームのメンバーなどが、ユーザーの登録情報などを確認するためにOkta CICの管理画面にアクセスすることがあります。ユーザーがいつ登録したのか、どの程度までユーザー移行は進んだのか、そして今後はユーザー分析をする際にも管理画面をチェックする必要があるのですが、Okta CICは管理画面のUIがすっきりとしているので初めて使う方でも直感的に使うことができます」
日刊工業新聞社、デジタルメディア局プロジェクトリーダー、昆 梓紗さん
“サービス間の送客”がOkta導入の狙いの一つ
Okta CICによるユーザー認証・ID管理の統合はさまざまなメリットをもたらしました。まず、日刊工のサービス利用者は、従来のようにサービスごとにユーザーIDを取得する必要がなくなり、無料の共通IDである「日刊工ID」を用いることで日刊工が提供している各種サービスを利用できます。サービスごとに異なるID/パスワードを管理する必要がなくなり、一つのサービスにアクセスすればシングルサインオンですべてのサービスへ簡単にアクセスすることが可能です。
もちろん、こうしたメリットの反面、ユーザーには日刊工IDを新たに取得する手間が生じます。そのためサービス提供側からすればユーザーの離脱が懸念事項になりそうですが、日刊工ではそれを大きな問題として捉えていません。「今回のID統合に伴い、たとえば日刊工業新聞電子版の無料会員登録のサービスはストップしました。何十万単位の会員がいたのでそれだけを見ればユーザーは減ったことになりますが、認証基盤を移行しても本質的なユーザーを失うことはないと考えます。当社の多くのサービスを利用される方は何らかの目的や必要性があって登録してくれているため、無料のBtoCサービスとは異なるからです。もちろん、移行にあたってはメールアドレスがないユーザーをどうするのか、海外のユーザーはどうするのかといった課題は残っていますので、それらは今後サービスごとにカスタマイズして対応しようと思います」(明さん)
日刊工では、日刊工業新聞電子版などの主要なメディアに、「重要なお知らせ」として日刊工ID提供開始に伴うログイン方法の解説を掲載しているほか、取得の仕方がわからないというユーザーからの問い合わせには一件ずつ丁寧に回答したり、企業内で多くのユーザーが利用している場合は登録を代行したりするなどして日刊工IDへの移行を促進しています。「日刊工IDに対応している各種サービスの統合前のID数は合算すると、おおよそ11万6千IDです。同一人物が複数サービスを利用していた場合、ID数で重複は発生していましたが、Okta CICを用いることでそれらのIDの重複がなくなり、非常に多くのユーザーIDを統合できる環境をスピーディに整えることができたのは大きな成果です」(昆さん)
Okta CICを利用開始してからまだ数ヶ月しか経過していないこともあり、統合されたユーザーID情報をどのように分析して、次のアクションへつなげていくかを考えるのはこれからのフェーズだと言います。しかし、すでにOkta CICを導入した効果は数字として見え始めています。「Okta CICの導入プロジェクトを開始してからすぐに自社サービスのシナジーマップを作成し、新たなマネタイズポイントを探りました。自社サービス間の送客がOkta CICを導入した狙いの一つだったのですが、導入後もっとも送客効果が現れたのがニュースイッチです。Okta CIC導入前と比べると、ニュースイッチの会員登録数は前年同月比で約3倍に増えました」(昆さん)
また、Okta CICの導入はセキュリティを高めることにもつながっています。これまでのようにローカルで管理するのではなく、Okta CICによってセキュリティが担保されたクラウド上でユーザーの認証情報を保存でき、情報漏洩のリスクを減らすことができます。「セキュリティの向上だけでなく、これまでのように毎年展示会などで利用するユーザー登録フォームを作成する手間もなくなりましたし、サービスごとにプライバシーポリシーを徹底しなければならない手間からも解放されました」(昆さん)
“3つの武器”がさらにDXを加速させる
「CMSによるコンテンツ基盤」、「CRMによるデータベース基盤」、「Okta CICによる統合認証基盤」という“3つの武器”を、DXプロジェクト開始からわずか3年ほどで作り上げ、ビジネスモデルの転換につながる第一歩を着実に踏み出すことに成功した日刊工。中でもOkta CICはこれまで社内に散らばっていたユーザーID情報をわかりやすく可視化させ、日刊工のDXをさらに加速させるのに必要不可欠な武器としてこれからも活用されていくはずです。
「DXプロジェクトでチームメンバーには、“顧客の顧客まで考えよう”と常に言っています。広告でしたら広告の出稿主の先にいるユーザー、展示会でしたら出展者の先にいる来場者を考えることがDXには欠かせません。私たちは多くのBtoBのメディアを展開していますので、顧客の先にいるエンドユーザーをOkta CICでしっかりと把握・分析することが、自社のビジネスのシームレスな連係と新しいビジネスの創出につながると思います」(明さん)
新聞のみならず、雑誌や書籍、Webサイトといったさまざまなメディアを展開する企業にとって、ビジネスを行ううえでもっとも重要なユーザー情報が事業や媒体ごとに社内に点在しているのは今でも決して珍しいことではありません。また、古くからビジネスを行う企業ほど、DXがうまく進まないこともあるでしょう。今回の日刊工のDXの実践はそうした企業にとって価値あるたくさんの気づきを与えてくれます。